1億人以上ともいわれるインド仏教徒を率いる僧侶、佐々井秀嶺85歳。


日本を飛び出しインドに渡り半世紀以上、熱気渦巻く土地で貧しい人々と共に仏教復興に身を捧げている。


これはそんなお坊さんの、豪快でお茶目な日々を記録した密着ドキュメンタリー。

 

 

 


熱気が溢れ出すインド、駆け込み寺のおじいちゃん。

 

今時、こんなに人間くさいお坊さんがいただろうか。眼光鋭く説法し、次の瞬間にはお茶目に笑い出す。なぜか孫の手を使って祈り、日本のご飯を食べたいと駄々をこねる。三回も自殺未遂した苦悩児は出家して数奇な運命によりインド仏教の頂点に立つことになった。
これは、そんなお坊さんの80歳を超えても衰えない情熱の日常を垣間見るロードムービー。大地も人も灼熱のエネルギーに満ち溢れたインドを、「ぼく」の手持ちカメラは臨場感たっぷりに映し出す。地平線まで続きそうな人波、そこで生きる一人一人の沸き立つ生命力。使命を胸に突き進むお坊さんと、日本とは大きく異なる環境で歩む人々の姿は、それぞれの場所で精一杯生きていく勇気と力を私たちにくれる。

 

 

 

 

そこに渦巻くのは、宗教よりも濃すぎる何か。

 

インドを家族で旅したぼくが偶然出会った型破りなお坊さん。彼はインド仏教を率いる著名な僧侶だった。けれど住んでいるのは学生寮みたいに雑然とした狭い部屋。そして豪快でお茶目な一見「ちょっと変わった普通のおじいちゃん」。時に人に騙されながらも厳しい環境の中で使命を胸に生き抜いてきた。お坊さんの魅力に迫るべく、ぼくは9日間インドのお寺に住み込んで僧達と生活を共にする。文字通り「駆け込み寺」として、現地の人々があらゆる相談に訪れる場所だ。
仏教への大改宗式では、厳しい階級制度であるカースト制から抜け出して、人間の尊厳を掴み取ろうとする民衆のエネルギーが迫ってくる。ぼくが出会うのは鮮やかな民族衣装と音楽、路上の犬や牛、それに佐々井を慕って弟子入りしている日本の若者や謎のお姉さん、「ジャイビーム」と声を掛け合う人々。そこには「宗教」というには混沌として濃すぎる何かが渦巻いているのだった。

 

 

 

 

 


キャスト・スタッフ

佐々井秀嶺

 

1935年岡山県生まれ。1967年に32歳で渡印してから50年以上、身分差別や貧困と闘い、インド発祥でありながら廃れていた仏教を復興させることに身を捧げている。瞑想中のお告げによりインド中央部のナグプールに導かれ、古代仏教の僧院マンセル遺跡を発掘、日本人にしてインド政府から少数派委員の仏教代表に選ばれるなど「ミラクル」な伝説を数多く持つ人物。

 

 

 

 

 

竜亀

 

1977年広島県生まれ。本名、亀井佑二。画家を目指し上京、美大を卒業した後、広島へ帰郷。おにぎり屋さんを開いていた2016年、佐々井上人の身の回りの世話をしないかと声をかけられインドへ。現地で佐々井の活動や人柄に衝撃を受け随身活動を開始、得度してインド仏教僧侶となる。佐々井からの信頼も厚く、おおらかで安定感のある、若手僧侶のまとめ役。

 

 

 

 

 

監督・撮影:竹本泰広

 

1978年大阪府生まれ、広島県在住。俳優・パフォーマーとして大阪で活動し、東日本大震災をきっかけに社会活動に参加。フィリピン・バギオの環境NGOで働き、山岳民族の暮らしから環境を学ぶ。帰国後、広島県尾道市に移住し、農業、教育、バイオトイレの製作、珈琲焙煎、木工、執筆など様々に活動。 2020年、物々交換でしか買えない著書「うんちは宇宙なのだ」(チイサイカイシャプレス)発行。

 

 

 

プロデューサー・編集:田中トシノリ

 

1981年広島県生まれ、尾道市在住。大学を卒業したのちロンドンに留学。Cavendish College Londonで映像制作を学び、卒業後はフリーランスとしてドラマ・CM・MV・広告写真など制作。2011年に帰国。尾道にてドキュメンタリー映画『スーパーローカルヒーロー』(2014年)を監督し、第30回ワルシャワ国際映画祭ドキュメンタリー部門ノミネート。国内外150ヶ所以上で上映。
2018年、同じ島に住む友人の竹本泰広にカメラを託し本作を製作。2020年、監督最新作『ひびきあうせかい RESONANCE』と共に2作同時公開。

 

 

 



人が生きる原動力って何だろう?

 

いつも考えている、もうひとりの自分がいる。
夢か希望か恋愛か?仕事、家族、仲間…待ったなしの人生の荒波の中で、自分だけにしかない生きる価値や意味なんて本当にあるのだろうか?

 


2017年の夏、ぼくは、妻と幼きふたりの娘を連れてインドへ旅をする。
日本から遥か彼方のインドの大地に流れるリアルな喧噪は、やがてぼくたちを飲み込もうとしていた。
そんな時、路上の群衆を切り拓くように、重厚な声を響かせる日本人の姿を見た。
ガツンとした衝撃が、ぼくたちの曖昧な存在を打ったかと思うと、小さな不安たちは知らぬ間に消え去っていた。
「バンテージ」こと佐々井秀嶺さんをインドで初めて見た時の印象は、輪郭がくっきりと太い人。
自殺未遂3回、命を狙われ、幾多の修羅場をくぐりぬけ、満身創痍になりながらも、悲壮感はみじんも感じない。泥だらけになり、騙され続けても、腹の底から轟くような笑い声と説法は人々の心をつかみ、生まれたてのような純粋無垢な輝きを放っていた。部屋で横になっている時は、ほとんど動かずに、か細い声でボソボソと話す85歳の普通のおじいちゃんのようになる。人間って面白いと感じた。

 


バンテージに出逢い、ぼくは強くなった、と思う。
なぜだろう?



バンテージの原動力が知りたい。

日本ではなく、インドで過ごす何気ない日常の中に何かヒントがあるのかもしれない。
2018年10月、宝探しに出かけるように、ぼくはカメラを片手に、人生初めてのドキュメンタリー撮影に挑んだ。
精神を超えた泥臭いリアルの向こう側、ウソのような奇跡のような日常。時折こぼれ落ちる使命という言葉。
これはひとりの人間を映し出した、たった9日間の日常の記録だが、そこにこそ見え隠れする何かがあると信じている。それぞれにしか感じることのできない何をつかんでもらえたらうれしい。



監督:竹本泰広